宇多田ヒカルさんのコンサート「WILD LIFE」があったんですが、それをインターネットで完全中継して、それがさらに無料、っていう、びっくりな出来事がありました。
前提を書いておくと、宇多田ヒカルさんのこのコンサートは横浜アリーナで2日間行われるコンサートで、その1日目でした。チケットは6,000円ですね。(参考)
さらに全国各地の映画館で、ライブビューイング(生中継)するんです。このチケットが有料で3,000円です。(参考)
こういった有料コンサートを、UStreamというインターネットの動画共有サービスを使って生中継するのですが、これが「無料」なんです。普通に考えるとありえないのですが、少しずつひも解いてみます。
まず先日、YouTubeでこれまでの「プロモーションビデオを無料公開」がありました。それもフルコーラスです。ネット上で話題になり、このときもありえない状態でした。このPVはDVDでも販売されているものです。これもこのコンサート公開の前振りだったのかもしれません。
昨日のUStream中継ですが、19時の開始時点で6万人(メインch5万人+サブch1万人)でした。19時に6万人だなんて、いかに仕事をさぼって、中継をみてる人が多いかがわかります!はじめと最後との少しずつしかボクは観ていないのですが、最後のほうは10万人に増えていました。
ピーク時点じゃないですが、UStreamにアクセスしてる人数がこんな感じ。
中継は、混むことを予想してか、配信チャンネルを2つ用意してたんですね、準備万全ですね。サブのチャンネルは、解像度を落としているので、コマ落ちもしづらいのですが、音質はそのまま。どちらも高音質でした。
19:00にはじまって、21:00頃に一旦終わり。その後アンコールが3曲あって、終了は21:30でした。アンコールの最後まで、最後の最後まで中継していたのも驚きでしたね。出し惜しみがまったくない。
ここまで無料で中継して、いったい何のために・・・?
ボクが考えたのは、4つ。
1つ目は、ファンづくりの一環。
コンサート終了時のtwitterをみていると、「次はライブに行きたい!」という方や、「今からCD借りてくる!」という方が結構いました。会場にいる人と、スクリーンを中継して観てる人とでは、感じる距離が違います。「今回はスクリーンの前だったけど、次はあちら側にいけるようにしよう」っと感じた人が多かったように思いました。
激戦の宇多田ヒカルLIVEのチケットが取れるかは難しいですが、行きたい人が増えたのは直接的なファンづくりにつながったでしょうね。毎回無料中継するわけはないでしょうしね。
2つ目は、記憶に残るため・忘れられないため。
宇多田ヒカルさんは、年内で活用休止を宣言しているので、直接的なファンでなくても、CDを借りて聴く人が増えたことは効果アリですよね。聞きたい、と思う人がいての音楽でしょうし。曲を売る以外に、タイアップでの収益も大きいでしょうからね。
3つ目は、ダフ屋対策。
今回のチケットが、オークションで2倍強の金額で取引されていることから、そこまでしなくても無料で観れますよ、としたのかも。最近、チケットの転売を副収入にしてる人が増えた気が・・・チケットを取りづらくなった気がします。そろそろテコ入れされそう。
4つ目は、曲の売上。
ライブが終わって、余韻に浸ってまた聞きたいと思う人は増えるはず。ライブは録画できないから、持ってない人は買うか借りるかしなきゃいけない。借りにいくのが面倒な人はインターネットにつながってるわけだから、その場でiTunesで買えますね。アンコールの曲目に、新曲が入ってたのは、この狙いがあったかも。
今、音楽をはじめとする著作権がらみのコンテンツは、払った料金に対する利用範囲が変化してきています。本を買ったのに、電子書籍にはまた別でお金を払う。iTunesで買ったけど、カーオーディオでは聴けないから、CDを買ってくる。個人利用の範囲でも、データの複製は著作権違反になりそうな流れがありますし、10年ほど打撃を受けていたコンテンツ業界が息を吹き返しそうですね。中身にお金を払っているんじゃなくて、利用シーンにあわせてお金を払っているわけですね。代わりに消費者は、どの端末で買うのが一番いいか、を考えさせられそうです。利用シーンが2つあるから、ってiTunesとCDと両方買う人は希少なはず。
実際に社会の変化が顕著になるには、もう少し月日がかかりそうですが、今回のライブ中継はその先手を打って取り組んだ事例になると感じました。
今の宇多田ヒカルさんでないとできなかった条件かもしれませんが、
1.熱烈なファンでなくても、ほとんどの曲を知っている
2.年内で休養する
3.著作権の変化
といったことが後押しして実現したように思いますね。
他にももっといろんな条件が重なって、これを実現できたんでしょうし、より多くの人に聴いて欲しいと思っていないと実現できないことだったと思います。それにしてもすごいことですね。すごい時代になってきましたね。