当たり外れが多い本(特にビジネス書)に対して、どういった接し方をすればよいかがわかる本。
読書を四段階のレベルにわけ、取り組む順序を論理的に示してくれる。自分の現在レベルを理解できるのと同時に、進むべき道・取り組み方がわかる本。
本を読む本 (講談社学術文庫) Mortimer J. Adler Charles Van Doren 外山 滋比古 講談社 1997-10 |
■点検読書
組織的な拾い読み、または下読み
1. 表題や序文を見ること。
どちらも素早く読む。サブタイトルなど、その本の目的や取り扱う範囲、著者のものの見方などを示すものには特に注意する。こうして本の主題を把握してしまう。ついでに心の中でその本の分類を考えてみてもよい。つまり心の「仕分け棚」のどの区分に、どんな本と一緒に、この本をおけばよいかを考えるのである。
2. 本の構造を知るために目次を調べる。
ドライブに行くまえに道路地図を調べるようなつもりで、目次を見るとよい。たいていの人は必要に迫られるまで目次を一瞥すらしないのにはあきれる。だが実際のところ、著者は相当の時間をかけて目次を作っているのだ。その苦労が水の泡になってしまうのは、まことに残念なことだ。
3. 索引を調べる
索引のない本もあるが、知識を伝える本にはたいていついている。索引で、その本の題目、範囲、引用文献をざっと調べる。索引に出ている重要な術語については、該当ページを二、三カ所開いて読んでみる。どの術語が重要かはすでに目を通した目次や表題からつかんだことをもとに、自分で判断すべきである。参考箇所としてあげられているページの数が多いほど、重要語と考えてよい場合もある。こうして見ていくうちに、あるいは著者の見方の新しさを示す記述にぶつかるかもしれない。
4. カバーに書いてあるうたう文句を読む。
この種の文を自己宣伝とばかり思ってはいけない。たいていは著者自身が出版社の宣伝部の知恵を借りて筆をとったものである。著者がここで自分の本の論点をできるだけ正確に要約していることも珍しくない。こういう苦心のあとを見落としてはならない。空虚な宣伝はたいてい一目で見抜けるものである。
5. その本の議論のかなめと思われるいくつかの章をよく見ること。
全体の内容が漠然とわかってきたら、そういう章のはじめや終わりには要約がついていることがあるから、これをよく読む。
6. ところどころ拾い読みしてみる。
せいぜいパラグラフを一つか二つ、長くても二、三ページぐらいずつでよい。本全体を拾い読みする。どこかに大切なことが書いてないかたえず気を配り、内部に脈うつ鼓動に耳を澄ます。とくに最後の二、三ページは必ず読む。結びの部分がある場合は、その前の二、三ページがこれにあたる。この最後の数ページで自分の仕事の新しさ、重要さを要約する、という誘惑に勝つことのできる著者はめったにいない。だから、たとえ作者の自己評価がまちがっていても、この部分を見逃すという手はない。
■目の動き
目を固定する癖をなおすには自分の手を使うだけでよい。自分で手をページの上において、それをだんだん速く動かす練習をする。親指、人差し指、中指をそろえ、これを活字の行にそって、目の動きより早めに移動させる。多少無理しても、この手についていくよう努力をする。やがて、その手の動きの通りの速さで字が読めるようになってくる。そうしたら手の方のスピードをあげてみる。この繰り返しをつづけると、いつの間にか読みの速度は二倍にもなっているだろう。
■積極的読書への4つの質問
1. 全体として何に関する本か
読者その本の主要テーマを発見し、それを著者がどのようにしてさらに小さい基礎的なテーマやトピックに細分し、順序よく発展させているかを見なくてはならない。
2. 何がどのように詳しく述べられているか
著者が伝えようとしている思考、主張、議論の要点を、読者は発見しようと努めなくてはならない。
3. その本は全体として真実か、あるいはどの部分が真実か。
はじめの二つの質問に答えてからでないと、読者はこの質問に答えられない。何を言っているのかがまずわからなくては、それが真実かどうか決めることはできない。ある本を理解したときに、著者の精神を知るだけでなく、その本が果たして真実かどうかを判断するのは、まじめな読者の義務である。
4. それにはどんな意義があるのか。
その本が情報を与えてくれたら、その意義を問わなくてはならない。著者はなぜ、そういうことを知ることが大切だと思うのか。それを知ることは、読者にとって重要か。そしてまた、その本が情報を与えるだけでなく、読者を啓発してくれたのなら、その先でどんな示唆がされているかを問いかけて、さらに啓発されるよう努める必要がある。
■本を自分のものにするには
積極的読書とは考えることであり、考えたことは言語で表現されるものだ。自分の考えていることがわかっていると言いながら、それを表現できない人は、自分の考えていることが本当にわかっていないのがふつうである。
自分の反応を書きとめておくことは著者の言っていることを思い出すのに役立つ。
効果的な書き入れのくふうはいろいろある。
1. 傍線を引く。重要な箇所や著者が強調している箇所に線を引く。
2. 行のアタマの余白に横線を入れる。すでに傍線をほどこした箇所を強調するため、または、下線を引くには長すぎるとき。
3. ☆印、※印、その他の印を余白につける。これは乱用してはならない。いくつかの重要な記述を目立たせるために使う。
4. 余白に数字を記入する。議論の展開につれて要点の移り変わりを示すため。
5. 余白に他のページのナンバーを記入する。同じ本の他の箇所で著者が同じことを言っているとか、これと関連したり矛盾したことを言っているということをしめるため、各所に散在する同じ種類の発想をまとめるためである。
6. キーワードを○でかこむ。これは下線を引くのとだいたい同じ効果をもつ。
7. ページの余白に書き入れをする。ある箇所を読んでいて思いついた質問や答えを記録するため、また複雑な議論を簡単な文にまとめるため、主要な論点の流れを追うために、これをする。裏表紙の見返しを使って、出てくる順番に要点をメモし、自分専用の索引を作ることもできる。
■本を分類する
読み始める前にその本の種類を知る知識を実用化するためには、知識を行為の規則に作り変えねばならない。「実態を知ること」から、「どうしたら目的に達することができるかを知ること」に移行しなくてはなrない。つまり、事実を知ることと、方法を知ることの二つになる。理論の本は事実を教え、実践の本は方法を教える。
理解したことを知る方法は一つしかない。その本の統一がどんなものか、自分の言葉で言ってみることである。ほんの二、三行であらわすのだ。
書き手がどんなにすぐれていても、読み手の側に「受け入れる技術」がなければ、コミュニケーションは成立しない。
解釈の三つの決まりを確認しておこう。第一は、「重要な言葉を見つけ、著者と折り合いをつけること」、第二に、「もっとも重要な文に注目して、そこに含まれる命題を見つけること」、第三に、「一連の文から基本的な論証を見つけ、これを組み立てること」である。
相手の考えを変えようとするからには、自分にもその用意があってしかるべきである。自分の誤りや無知もまた認めるだけのゆとりが必要である。反論することは、相手に何かを教えることだとすれば、それはまた、教えられることでもあることを忘れてはならない。
反論がほんものである場合で、このときは、時間をかけ、事実に照らし、理性に訴えて、これを解消しなければならない。意見が違うのは、まだ議論の余地があるということだから、理性を失わないという反論の鉄則は、根気よく守らなくてはならない。
著者の主張に十分な根拠がなければ、それは、あくまで個人的な意見の域を出ないものと考えてさしつかえない。著者が知識を筋道立って説いているか、ただ個人的な意見をそのままぶつけたものか、その区別もつかないようでは、読者から学ぶことはできない。それでは、著者に対する個人的な興味から、本を身上調査の材料にして楽しんでいるにすぎない。
■分析読書の三段階
1.分析読書の第一段階
──何についての本であるか見分ける
(1)種類と主題によって本を分類する。
(2)その本全体が何に関するものかを、できるだけ簡潔に述べる。
(3)主要な部分を順序よく関連づけてあげ、その概要を述べる。
(4)著者が解決しようとしている問題が何であるかを明らかにする。
2.分析読書の第二段階
──内容を解釈する
(5)キーワードを見つけ、著者と折り合いを付ける。
(6)重要な文を見つけ著者の主要な命題を把握する
(7)一連の文の中に著者の論証を見つける。または、いくつかの文を取り出して、論証を組み立てる。
(8)著者が解決した問題はどれで、解決していない問題はどれか、見きわめる。未解決の問題については、解決に失敗したことを、著者が自覚しているかどうか見定める。
3.分析読書の第三段階
──知識は伝達されたか
(A)
(9)「概略」と「解釈」を終えないうちは、批評にとりかからないこと。
(「わかった」といえるまでは、賛成、反対、判断保留の態度の表明を差し控えること)
(10)けんか腰の反論はよくない。
(11)批評的な判断を下すには、十分な根拠をあげて、知識と単なる個人的な意見を、はっきり区別すること。
(B)批判に関してとくに注意すべき事項
(12)著者が知識不足である点を、明らかにすること。
(13)著者の知識に誤りがある点を、明らかにすること。
(14)著者が論理性に欠ける点を、明らかにすること。
(15)著者の分析や説明が不完全である点を、明らかにすること。
<注意>(12)(13)(14)は、反論の心得である。この三つが立証できない限り、著者の主張にある程度、賛成しなくてはならない。そのうえで、(15)の批判に照らして、全体について判断を保留する場合もある。
■他の本から手助けを得る
ある著者の作品を読めば、そのあとにつづく著者の作品が理解しやすくなる。互いに関連のある作品を、その関連の中において読むこと、また、理解しやすいように、作品が書かれた順をおって読むということは、付帯的読書の基礎的、常識的な心得である。
■参考図書の使い方
参考図書を使いこなすには、自分が何を知りたいか、はっきりした意図を持たねばならない。言いかえれば、読者は参考図書に対して、はっきりと問いかけができなければならないということだ。
■小説、戯曲、詩の読み方
「作品の好ききらいを言う前に、読者は、まず作品を誠実に味わうよう努力すること」。味わうとは、作家が読者の感情や想像力にはたらきかけて作り出そうとした経験を、することである。受け身に読んでいたのでは、これを経験することはできない。「教養書」を読んで理解するのと同じく、積極的な態度で読まなくては、作品を味わうことはできない。
■シントピカル読書のまとめ
シントピカル読書の準備作業─研究分野の調査
1.図書館の目録、他人の助言、書物についている文献一覧表などを利用して、主題に関する文献表を作成する
2.文献表の書物を全部点検して、どれが主題に密接な関連をもつかを調べ、また主題の観念を明確につかむ。
(注意 これら二つの作業は、厳密に言えば、必ずしもこの順番にするわけではない。つまり、この二つは、相互に影響し合うものだからである。)シントピカル読書─準備作業で集めた文献を用いて
第一段階
準備作業で関連書とした書物を点検し、もっとも関連の深い箇所を発見する。
第二段階
主題について、特定の著者に偏らない用語の使い方をきめ、著者に折り合いをつけさせる。
第三段階
一連の質問をして、どの著者にも偏らない命題をたてる。この質問には、大部分の著者から答えを期待できるようなものでなければならない。しかし、実際は、著者が、その質問に表立って答えていないこともある。
第四段階
さまざまな質問に対する著差の答えを整理して、論点を明確にする。あい対立する著者の論点は、必ずしも、はっきりした形で見つかるとは限らない。著者の他の見解から答えを推測することもある。
第五段階
主題を、できるだけ多角的に理解できるように、質問と論点を整理し、論功を分析する。一般的な論点を扱ってから、特殊な論点に移る。各論点がどのように関連しているかを、明確に示すこと。
(注意 弁証法的な公平さと客観性とを、全課程を通じてもちつづけることが望ましい。そのために、ある論点に関して、ある著者の見解を解釈するとき、必ず、その著者の文章から原文を引用して添えなくてはならない。)
■読書と精神の成長
もっとすぐれた本の場合は、再会したとき、本もまた読者とともに成長したようにみえるものだ。読者は前には気づかなかった、まったく新しい事実を数多く発見する。これは最初の読み方が悪かったのではなく、最初に見すごしていた別の真実が見えてきたのである。最初の読書で発見した事実は、読み返しても、やはり真実であることに変わりはない。